2023年10月27日
アニコム先進医療研究所株式会社(代表取締役社長 河本 光祐、以下 アニコム先進医療研究所)と国立感染症研究所は、アニコムグループが実施した「#StayAnicom」プロジェクト※1を通じ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者からイヌ・ネコへの重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の自然感染頻度について、共同研究を行いました。本研究の成果が学術誌『viruses』に掲載されましたので、お知らせいたします。
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、幅広い宿主範囲を持つ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新たな病原体です。ヒト以外のSARS-CoV-2の感受性は、イヌよりもハムスター・ネコ・フェレットにおいて高いことが知られています。実際にイヌやネコなどのペットにおけるSARS-CoV-2の自然感染も世界中で報告されており、主な感染経路は飼い主を介したものと考えられています。しかしながら、実際に動物が飼い主からSARS-CoV-2に暴露される頻度は不明です。
さらに外国では、ネコから獣医師にSARS-CoV-2が感染した例も報告されています。こうしたペットからヒトへのSARS-CoV-2感染を防ぐには、COVID-19患者のペットのSARS-CoV-2感染率を明らかにする必要があります。本研究では、患者からペットへのSARS-CoV-2の自然感染頻度について検討しました。
本研究では初めに、#StayAnicomプロジェクトを通じて預かったイヌおよびネコから、real-time RT-PCR法※2を用いてSARS-CoV-2のウイルスRNAの検出を試みました。その結果、53頭中8頭のイヌ (15.1 %)、34頭中5頭のネコ(14.7 %)からSARS-CoV-2ウイルスRNAが検出されました。ウイルスRNAの排出は最長でイヌにおいて11日間、ネコにおいて15日間、継続して検出されました。一方で、これらのペットの臨床症状は、イヌ1頭が軟便、ネコ1頭が鼻水の症状を示しただけであり、この臨床徴候がSARS-CoV-2感染によるものなのかは確認できませんでした。
次にSARS-CoV-2陽性だったイヌ7頭およびネコ4頭から血清サンプルを採取し、SARS-CoV-2の中和抗体検査※3を行いました。抗原はWuhan、DeltaおよびOmicron変異体3つを用いました。その結果、イヌにおける中和抗体の保有率は、Wuhan変異体に対しては100%、Delta変異体に対しては83.3%、Omicron変異体に対しては16.7%でした。ネコにおいては抗原Wuhan、DeltaおよびOmicron変異体の3つの亜種全てに対し、中和抗体を持っていました。
最後にイヌ5頭とネコ2頭のSARS-CoV-2の塩基配列の完全長を決定し、実際に感染していたウイルスの種類を分類した結果、イヌにおいてはB.1.1.284およびAY.29、ネコにおいてはB.1.1.214に分類されました。
本研究結果から、日本ではコロナ禍における感染拡大を通じてこれまで多くのイヌやネコがSARS-CoV-2に感染しており、その一部は臨床症状を示して動物病院に運ばれた可能性があります。したがって、獣医師とその関係者は、罹患したペットからヒトへのSARS-CoV-2の逆感染の可能性に注意する必要があり、飼い主はSARS-CoV-2に感染した際にはペットとの密接な接触を避け、ペットをSARS-CoV-2感染から予防すべきであるという知見が得られました。