2024年11月22日
アニコム ホールディングス株式会社(代表取締役 小森 伸昭)の子会社であるアニコム先進医療研究所株式会社(代表取締役社長 堀江 亮)、国立遺伝学研究所、公益財団法人 かずさDNA研究所、香港中文大学、宮崎大学、麻布大学は、共同研究(以下 本研究)を通じて、ネコのすべての遺伝情報(ゲノム)を正確に解読するとともに、これまで染色体上で見つかっていなかった遺伝子を1,600個以上明らかにすることに成功しました。この成果は、ネコの遺伝研究の基盤情報となるだけでなく、未知の遺伝病解明や再生医療、分子標的薬開発への応用が期待されます。
本研究の成果は、オランダの出版社Elsevierが刊行する学術誌『Journal of Advanced Research』にて、10月28日にオンライン公開されました。
生物のすべての遺伝情報(以下 ゲノム)は、その生物を形作るもっとも基本的な情報です。ヒトではゲノムを詳細に読み解くことで、遺伝病研究やがんの個別化医療、人類史の解明に貢献しています。国際基準ゲノム配列(以下 参照配列)は、こうした研究を行う上でなくてはならない基盤情報ですが、ヒトやマウスなど一部を除く多くの動物では、この情報はいまだ未整備あるいは不完全なままであり、詳細な生物学研究を進める上で課題となっていました。
イエネコは2007年に最初の参照配列が公開され、以降様々な遺伝研究や獣医学研究がなされてきました。この参照配列は何度も更新され、現在のバージョン(felCat9)まで精度が向上してきましたが、それでもまだ配列解読時のエラーが存在することや、未解読の配列が多く存在していました。実際に、これまでの私たちの研究でも、この解読エラーが遺伝病の分析に悪影響を与えていることが示されています※1。また、イエネコは国や品種により遺伝的に多様であることが分かっています※2が、felCat9はアビシニアン種のネコに由来するDNAをベースにした配列であり、数多く存在するネコ種をカバーするには限界がありました。一方、一部の品種では他の品種との交配が認められており、そうした品種を使用した参照配列を構築することで、より多くのネコ種でより正確な遺伝的変異の検出が期待できます。
そこで本研究では、世界的にも人気があり、スコティッシュ・フォールドなど近縁な品種が多いという特徴をもつアメリカン・ショートヘアーで高精度なゲノムの解読および参照配列の樹立を行うとともに、遺伝子の情報基盤となる転写物(RNA)の情報を詳細に解析し、より正確に、かつ多くの品種に応用できる参照配列の構築を目指しました。
本研究ではまず、PacBio社のロングリードシークエンサーに加え、Illumina社のショートリードシークエンサー、Dovetail社のHi-C、Bionano社のSaphyrといった先進的なゲノム配列解読技術を活用し、メスのアメリカン・ショートヘアーのゲノム配列を解読し、参照配列を新たに開発しました。この参照配列は、アニコムの名を冠しAnicom American Shorthair 1.0 (AnAms1.0)と名付けました。
AnAms1.0を6つのネコ科動物の参照配列と比較したところ、参照配列の品質の良さを示す指標である配列のエラー率、再構築された塩基配列長の中央値(N50)、遺伝子の再構成のスコア(BUSCOスコア)が、いずれも既存のネコ科動物の中で最も良い値となっており、最も正確に再構成された参照配列であることがわかりました。解読が難しい嗅覚受容体の遺伝子群においても、AnAms1.0はfelCat9よりも多くの完全な遺伝子が再構成されていることがわかりました。
次に、一般的に使用される遺伝子の転写物を解読するRNA-Seqに加え、ロングリードシーケンサーによって転写物の全長を解読するIso-Seqにより、遺伝子の情報を詳細に解析しました。その結果、染色体上に存在する遺伝子のうち、1,685個の遺伝子が新たに検出されました。遺伝子は病気や形態形質などを形作る重要な因子であるため、今回の発見は、ネコの個別化医療や再生医療といった獣医療の発展に貢献すると考えられます。なお本研究で得られた正確性の高い遺伝子情報は、筋ジストロフィーに関与する遺伝子変異の同定と※1、再生医療への応用が期待できるネコのiPS細胞の作製の際にも実際に使用されました※3。
これらのデータは、国立遺伝学研究所の中村保一教授らが運営する独自のネコゲノムデータベースCats-I (キャッツアイ、https://cat.annotation.jp/)やアメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)等で公開され、世界中の研究者に利用されています。
本研究では、イエネコの遺伝情報をより正確に解読したことにより、これまで未解読だったゲノム領域を明らかにするとともに、多くの遺伝子の発見に繋がりました。これらの成果は、遺伝学や関連分野への波及効果だけでなく、獣医療の発展にも貢献すると考えられます。
今後もアニコムグループでは、遺伝子をはじめとした様々な研究や、その知見を生かした遺伝子検査サービスを通じて、獣医療の発展と動物福祉の向上を目指してまいります。
ペット保険シェアNo.1*のアニコム損保を中核とするアニコムグループの一員として、どうぶつの医療分野における基礎研究の推進、先進医療の研究・開発を目的として2014年に設立されました。
遺伝学的研究のみならず、再生医療を含めたどうぶつ医療の発展を目指すとともに、当社グループのビジョンである予防型保険の実現や、早期発見・早期治療の体制構築、治らない・治りにくい疾病を「治す」医療技術の開発に向けて取り組んでいます。
HP:https://www.anicom-med.co.jp/
宮崎大学は、教育学部・医学部・工学部・農学部・地域資源創成学部の5学部と7大学院研究科を有する国立総合大学で、「世界を視野に、地域からはじめよう」のスローガンのもと、グローバルな影響を常に考慮しつつ、ローカルな場を活動の拠点として、その成果を広く世界に発信することを大切にしています。特に、異分野融合の研究に力をいれており、2007年度に農学工学総合研究科(博士後期課程)を設置したほか、2010年度に日本で初めてとなる医学と獣医学が融合した医学獣医学総合研究科(博士課程)も設置するなど、他大学に先駆けて異分野融合型の研究体制の土台を築いており、関係機関と連携しながら地域の産業振興に役立つ研究と人材育成に力を入れています。
宮崎大学の概要:https://www.miyazaki-u.ac.jp/public-relations/publications/outline.html
麻布大学は、2025年に学園創立135周年を迎えます。動物学分野の研究に重点を置く私立大学として、トップクラスの実績を基盤に新たな人材育成に積極的に取り組んでいます。
本学は、獣医学部(獣医学科、獣医保健看護学科、動物応用科学科)と生命・環境科学部(臨床検査技術学科、食品生命科学科、環境科学科)の2学部6学科と大学院(獣医学研究科と環境保健学研究科)の教育体制に、学部生、大学院生が学んでおり、ヒトと動物のよりよき関係をつなぐ専門性の高い人材育成を進めていきます。
麻布大学の概要:https://www.azabu-u.ac.jp/about/